存在しない「敵」に脅える人達

 クラスター爆弾の廃止について、社説で遺憾の意を表明しているのは、案の定、主要五紙のうち読捨新聞と3K新聞のみ。いずれも、日本が今にも「敵」の攻撃に晒される危険があるという前提で危機感と不安を表明している。この人達は、いったい何に脅えているのだろうか?

  • 産経

 クラスター(集束)爆弾の事実上の全面禁止を定めた条約案が、ダブリンで開かれていた国際会議で採択され、日本政府も支持を表明した。
 これまで全面禁止案を受け入れなかった日本の方針転換は、福田康夫首相の意向とされているが、少なからぬ問題点をはらんでいることを指摘しておきたい。
 第一は、日本の平和と安全が確保できるのかどうか。日本はこれまで、侵攻してきた敵を海岸線で撃退する防御兵器として保有してきた。万一の場合、海岸線が長くて離島の多い日本にとってはほとんど唯一の有効な兵器だ。
 条約により自衛隊保有分はすべて禁止の対象となるが、冷戦が色濃く残る北東アジアで、あらゆる事態に対処できる軍事的能力を日本だけが持たないという危うい構図が出現する。
 日本は保有分を8年以内に廃棄する義務を負う。条約は目標識別能力と自爆装置が付いた最新型を除いたが、日本はこの導入か、新型を開発するにしても10年程度、国土防衛に空白が生ずる。廃棄費用だけでも数百億円かかる。日本は代替兵器が装備されるまでの移行期間を求めたが、条約には盛り込まれなかった。残念である。
 条約の実効性の問題もある。主要な保有国である米国、ロシア、中国、イスラエルなどは会議に参加すらしていない。全面禁止は現実的でないと考えているためだ。結果として主要国も使用を躊躇(ちゅうちょ)する傾向はあるだろうが、クラスター爆弾の効果的な規制はかえって困難になった一面もある。
 一方で条約加盟国は非加盟国との「軍事協力・作戦に関与できる」との条文が追加された。米軍がクラスター爆弾を使用する可能性のある日米共同作戦への自衛隊の参加・協力は可能となる。米軍の抑止機能が一応確保される。
 クラスター爆弾は殺傷力が高く、不発弾による痛ましい事故が相次いでいる。日本は被害者支援や不発弾処理などに最大限努力すべきである。
 だが一方で、国家として国民の生命と財産を守る責務を負っている。英国などが賛成に転じたことも日本の判断に影響を与えたようだが、日本が置かれている厳しい安全保障環境を考えれば、別の選択肢もあったはずだ。
 12月に開かれる条約の調印式まで時間はある。将来に禍根を残さない慎重な対応を求めたい。

クラスター禁止 どうする安全保障の空白
  • 読売

 人道的見地による軍縮は必要だが、安全保障を損なうのも困る。
 クラスター爆弾の禁止条約案が、100か国超の参加するダブリン国際会議で採択された。
 クラスター爆弾は、内蔵する多数の子爆弾を空中で散布し、広範囲に地上を攻撃する爆弾だ。費用対効果が大きい反面、海外では多くの民間人が不発弾の被害に遭っている。近年、禁止を求める国際世論が急速に高まった。
 被害が出ているのは、イラクラオスアフガニスタンレバノンなどだ。いずれも遠い地域だが、クラスター爆弾保有する日本も無関心ではいられない。
 条約案は、「子爆弾9個以下」「自爆装置付き」「目標識別能力付き」などの条件を満たす最新型の爆弾を除き、禁止対象とした。全面禁止に近い内容だ。
 日本は、保有するクラスター爆弾のうち、自爆装置付き爆弾の例外扱いや、移行期間の設定を主張したが、認められなかった。
 米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮などは、ダブリン会議に参加しておらず、クラスター爆弾に関して何の規制も受けない。その意味で、日本の主張には理があるはずだが、他の参加国の理解を得るには至らなかった。
 一方で、条約案には、非加盟国との共同作戦には関与できる、との条項が盛り込まれた。米国との軍事協力の余地を残すもので、日英仏独などの主張が通った。
 条約案は、参加国の圧倒的多数が推進した。内容面で多少不満があっても、人道上や軍縮推進の立場から、日本が同意を決断したのは、妥当な判断だろう。
 日本は12月に条約案に署名する方針だ。これに伴い、条約が発効すれば、自衛隊保有する4種類、総額276億円分の爆弾を8年以内に廃棄する義務を負う。廃棄と代替兵器導入には総額数百億円を要するとも見られている。
 防衛費の抑制傾向が続く中、少なくない金額だ。政府は、効率的な廃棄方法を含め、総合的な対応策の検討を急ぐ必要がある。
 問題は代替兵器だ。
 条約案の対象外となる目標識別能力付き最新型爆弾は、ピンポイント攻撃には適しているが、広い範囲を攻撃し、「面を制圧する」ことはできない。島国の日本にとって重要な、敵部隊の上陸を阻止する効果は小さいという。
 完全な代替兵器を探すのは簡単ではない。米軍との防衛協力を含め、戦術面の見直しなども検討する必要があるかも知れない。

クラスター禁止 安全保障上の代替策を探れ


 で、面白い事に、「天声人語」が上の社説を嘲笑うかのように、見事に皮肉を効かせているのでこれも引用しておく。

 群れをなして舞い降り、自爆によって敵を葬る。生き残った仲間は草むらなどに潜み、戦いが終わった後も子どもらを殺し続ける。どこの鬼畜部隊もかなわない、クラスター爆弾の残酷さだ▼人殺しの道具に善も悪もないが、この兵器はとりわけタチが悪い。親爆弾が空ではじけ、数百もの子爆弾を雨と降らす。いくつも残る不発弾はわずかな衝撃で爆発し、何年にもわたり民間人を死傷させる。地雷をばらまいたように、平和が戻った後の生活、土地、時間を奪う▼人道上の批判がようやく実を結び、この週末、クラスター爆弾のほとんどを禁止する条約が国際会議で採択された。不発になりにくい最新型を除いて、参加国は発効8年以内に全廃する。慎重だった日本も同調し、手持ち分はすべて廃棄するという▼情けないことに、米国、ロシア、中国などは条約づくりにさえ参加していない。それでも、対人地雷のように国際世論で包囲し、軍事大国が「使いづらい」状況を作ることはできる。条約を一歩にしたい▼自衛隊は「人道的」な最新型の調達を検討するらしい。長い海岸線の防衛に欠かせないという。だが、敵軍の本土上陸という「机上の危機」に備える前に、やるべきことは多い。首相の決断で同意した条約だ。廃棄の実績をもって、同盟国や周辺に平和国家の範を示してはどうか▼現実論に百歩譲っても、およそ人道的な爆弾などない。兵器は人間の弱さ、未熟さの証しだ。作っては壊す無駄のきわみ。不幸の根はいつも、武器ではなく、武器を手放せぬ者にある。


#追記:天声人語に書かれている「机上の危機」というのは、非常にうまい表現だと思う。「もし」とか「万が一」とか「不測の事態」というのを考え始めると、そこから論理のドミノ倒しが始まる。「最近は治安が悪いから国民は防刃チョッキを着て特殊警棒を持つように」とか、「911が日本でも起こるかもしれないから高層ビルには対空砲を装備する」とか、「毒ガステロがあるかもしれないから国民にはガスマスクの携帯を義務化」とか、「核ミサイルが飛んでくるかもしれないから国民にはシェルターでの生活を義務化」……。際限がない。3Kや読捨が懸念しているのは、このレベルの話でしかないと私は考える。

有害情報も「知る権利」に入るはずだ

青少年保護を目的にインターネット上の「有害」とされる情報を規制する法案について、ヤフーや楽天などネット5社と全国高等学校PTA連合会長が31日、国の関与を強める自民党案への懸念を表明した。
5社は、国が関与する民間機関がフィルタリング(閲覧制限)の基準をつくる自民党案は「画一的な価値観の強制で、フィルタリングの正しい理解を妨げる」と指摘。有害とする情報の範囲も広くあいまいで、結果的に幅広い表現規制を招くと批判する。

有害サイト規制法案に懸念表明 ネット5社とPTA

 すべての人には知る権利がある。それは有益な情報も含まれるし、有害な情報だって含まれる。そもそも、有益か有害かを決めるのは誰だ? 各個人で基準が違うはずだ。自衛隊や警察関係の方々にとって、私の言動などは「有害」なのだろうが、そんなことは知った事ではない。発信する側の自由だ。
 そんな白と黒とが曖昧なものに対して「基準」などを決めるという発想自体にもともと無理があるのだ。
 政治家先生にだっていろいろな考えの人がいる。極右もいれば極左もいる。ポルノに寛容な人もいれば、極めて不寛容な人だっているだろう。戦争を翼賛する人もいれば断固として反対だという人だっている。
 じゃあ、何が「有害」なのかを、どの基準でどんな人が決めるのか? 凄く疑問が残る。
 だいたい、そんなものにスタンダードなんて、元からありはしないのだ。
 芸術なのか、わいせつ物なのか、ボーダーにいる小説・絵画・写真・映画などは山のようにある。それをどうやってフィルタリングするのだろうか?
 私などは、個人的にネオナチとかレイシズム、戦争翼賛の文書などは「有害」だと思うので全部消えて欲しいが、でも言論の自由というものがあるので、存在を否定することはしないし、できない。裏を返せば、自分にも降りかかってくるからだ。そんな恐い事など、できるものか。
 規制するのは簡単だ。弾圧するのも簡単だ。そして、それに従ってしまうのは、「考えなくても良くなる」ので、非常に楽だ。
 最も難しいのは、「自由で居続ける事」だ。これにはかなりの努力がいる。規制や弾圧をかいくぐってでも、危険を覚悟で信条を維持しなければならないのだから。ソ連時代、作家たちが、自由に作品を発表し続けるために、どれだけの努力をし、危険をおかしてきたのか、直接聞いているだけに、自由でありつづける事の重要性だけは、主張し続けたい。
 だから、私は、一切の情報統制、フィルタリングなどの行為に対して反対する。

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良かったね

ドーピング騒動から解放された川崎FのFW我那覇和樹(27)は、問題発生以来公式戦初、406日ぶりに得点を決めて、涙を流した。
CASに訴えを認められるまでの1年1カ月。重圧とも戦った。家族で買い物に出掛けた時に「ドーピングの我那覇だ」との声が聞こえたこともある。それからは、実際に声が聞こえなくても「みんなそう思っているのかな」と思えてきて、外出を避けるようになった。
ピッチ外の苦しみは、成績にも直結。騒動勃発(ぼっぱつ)後、まったく点が取れなくなった。代表からも声がかからず、チームでのレギュラーの座も鄭大世に奪われた。

川崎F我那覇疑惑晴れてV弾/ナビスコ杯

 苦しい時をよくぞ乗り切った。この一年間で被った損失は計り知れないほど大きいと思う。人生を狂わされてしまったと言ってもいいだろう。
 でも、最後まで諦めずに戦い続け、勝った。名誉も回復した。
 だが、被害者のままでいてはいけない。これから勝ちに行く事を目指して前進してほしい。
 我那覇の立場とか問題は、自分にふりかかってきた問題と状況がよく似ているので、非常に共感できる。まじめな話をすると、ここ数年間は本当に苦しかったよ。ほとんど何もできなかったに等しいし……。それを知られるまいと必死に虚勢を張ってきた部分もあったが、その我慢が余計に自分を苦しめる事だってあった。でも、弱音を吐いたら終わりだと思っていたので、必死で耐えてきていた。
 我那覇もよくぞ耐えて戦い続けてきた。立派だと思う。これから回復してくれる事で、私にも復調する勇気を与えて欲しい。本気で応援しているよ。