「ストーカー」のトロッコ

 タルコフスキー監督の映画「ストーカー」に出てくるトロッコのシーンは、故意に眠くなるように作られていると言われている。
 それは、ちょうどこの時間、昼下がりの暖かい中、電車に揺られていると眠くてしかたがない状態になってくるのと同じである。
 規則的な、しかも心地よい揺れと音。それが単調に、しかも延々と繰り返される。この状況で眠くならない人はいない。実際、今現在、私が乗っている車両の中では、私だけが携帯で日記を入力していて、他の人達のほとんどが寝てしまっている。
 この気持ちを味わったことが無いという人は少ないだろう。その気持ちの良い眠りを誘うシーンを、映像と音しかない映画のフィルムの中で再現してみせたタルコフスキー監督の技量は、やはり凄いと思う。人間の生理的感覚を熟知していないとできる技ではない。
 眠りすぎて駅を乗り越さないよう、必死で起きて日記を書きながら、タルコフスキー監督の魔術的な技量に思いを寄せるのである。ああ、眠ってしまいたい…。