シャフナザロフの言い分

 1923年に創設されたロシア映画の伝統的な撮影拠点、「モスフィルム」を見学した。ソ連崩壊後の経済破綻(はたん)で、ロシア映画は「ゼロまで落ちた」(シャフナザロフ所長)ともいわれた。が、今や、スタジオには最新の撮影・編集機器が備えられ、モスフィルムは「欧州で最高の映画撮影所」とも評されている。
 実際、ロシアでは国産映画が元気だ。昨年の映画全体の興行収入は一昨年よりも3割増え、収入に占める国産映画の比率は、数年前の1割未満から約4分の1に伸びている。モスフィルムではハリウッドばりの特撮映画がどんどん制作され、プーチン大統領も先に「ロシア映画は十分な勢いで復活しており、展望は明るい」と自信を見せた。
 もっとも、当の映画人はプーチン氏のように楽観的ではない。“ペレストロイカ世代”の名監督であるシャフナザロフ氏は「今のロシア映画界からはソ連時代のような創造力は失われた」と危機感を表明する。同氏は理由を明言しなかったものの、「(映画)教育の水準が下がったことと、国の文化支援が足りないことが一因だ」と話した。
 確かに、今のロシア映画界には、氏が1970年代に仕事をともにしたタルコフスキーやミハルコフらに比肩する大物監督は見当たらない。ロシア映画界は文学と同様、若い世代の新しい才能を待ちわびているのだ。

【赤の広場で】威勢の裏側

 確かに、昔から私が好きな「ソ連映画」は無くなったね。
 今のロシア映画のようなハリウッド化が決して正しい方向性だとは思わない。でも、それを一概に否定するのも良くない。若い世代には若い世代の言い分があるからだ。
 時代が動けばトレンドも動く。その中で確固たる価値観を主張できるかどうかは、作家の力量次第だと思う。シャフナザロフの言い分は十分に理解できるし、そう思いたくなる気持ちはわからないでもない。
 しかし、まだまだ結論を出すには時期が早いと思う。それこそ、新しい時代に対応した新しい才能が出てくるのを待つしかない。
 実際、文学にはペレーヴィンのような凄い作家が現れたわけなので、映画でもそれは実現可能だと考える。「ナイト・ウォッチ」を撮ったティムール・ベクマンベトフのように、能力を認められて世界に飛び出せるだけの能力を持った監督も出ているわけだしね。
 こんなことを書いている時点で、私はシャフナザロフ側的な「保守勢」に分類されちゃう世代になっちゃったのかもしれないけど。