そうなんですよ、川崎さん!
id:COCOさんによる「泰平ヨンの航星日記」評。
狂騒といえるほど饒舌な語りにちょっと驚かされたり、笑ったり膝を打ったりうなずいたりしつつ、ラストではたと考え込まされて落ち込んだり、とこちらの感情を随分荒々しく揺さぶる作品たちは、判りやすい・読みやすい分だけショックも感じやすいものだったと言えるかもしれない。
まさにそのとおり!
この作品に取りかかっている時には、本気で気が狂いそうになった。訳している最中は自分で書いていながらクスクスと笑ってしまい、そして最後には問いかけてくるテーマが余りにも重たいので凄く落ち込んだ。一編をやるのに他の本一冊分くらいのパワーが必要だった。
それほどまでに話題(テーマ)が広く、そして考察が限りなく深い。
私が「訳者あとがき」に「ホラー」だと書いたのは、レムの辛辣な指摘がまことにもって正しく、しかも我が身に襲いかかってくるから、実際に恐くなってしまったためだ。自分が人間として、この地球で、この歴史の中に生きている事が恐くなった。まさに自分がサイコパスになり、断罪されているかのような感覚に支配された。
レムの作品には、すべてユーモアが含まれているのだが、今まで論理性とか考察だけが強調され、指摘されてきた。しかし、ユーモア色が特に強い泰平ヨン・シリーズは、実のところレム作品の中において、奥に含まれた毒が最も強い部類に入るのだ。
とにかく、「レムは難しい」と思われる事だけはもう止めにしたいと願っている。もちろん、作品に対する深い考察は必要だ。だが、レムはユーモアを交えた物語として、わかりやすく問いかけているのだ。レムを読むのは決して難しくはない。ただし、おびただしい情報を整理し、考察するのは読者に任されているため、読んだ後がたいへんなのは確かかもしれない。でも、それは読者が各自で咀嚼すれば良いだけの事だと思っている。
読んでいる間は純粋に楽しみ、その後でちょっと考えてくれればそれで良いと思っている。今回の作業にあたっては、「変えすぎだ」というご意見もいただいた。しかし、思い切ってシンプルにすることでしか見えてこないものもたくさんあった。実際、全部が見えているなどとも思ってはいない。事実、既に何カ所かの読み落としがあったことも判明している。自分で気がついているところもあるし、指摘されてわかったこともあった。それは今後の課題として検討すべきだと思っている。
一つ言えるのは、この作品はとにかく楽しくて、そしてとにかく深いということだ。
レムがなぜ、泰平ヨンという人物を生涯にわたって主人公にしてきたのか。泰平ヨンを出す事によって、「何でもできる」からだろう。だから、泰平ヨンは楽しくて、同時に多彩で、そして深いのだ。
- 作者: coco
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/05/23
- メディア: コミック
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