実用性と精神性と

「日本の武道に対するロシア人の関心の高さを肌で感じた。合気道がロシアでどれだけ広がっていくのか楽しみです」

合気道の神髄 ロシアで伝授

 日本では、ロシア生まれの格闘技、サンボやシステマの実用性に関心が高まり、習う人の数も増えつつある。とにかく、日本でのロシア格闘技に対する関心は高い。「北の格闘技大国」という認識だ。
 一方、ロシアでは日本の武道が大人気で、私の知り合いも、多くが空手や合気道を習っている。とにかく、ロシアでの日本武道に対する関心は高い。「東の精神修養技術大国」という感じだ。
 この対比は面白い。なぜ、お互いが、お互いの持つものに関心を寄せるのか?
 ソ連時代から、サンボやシステマは軍隊格闘技として発展してきた。その実用性を疑う人はいない。しかし、ロシア人は、実は「野蛮なもの」に対しては、非常に強い嫌悪感を感じる傾向が強い。実際、サンボを作る際、柔道を参考にしたが、「野蛮だ」という理由で絞め技は排除した。現在、全世界で人気の総合格闘技では、ロシア人選手を抜きに語れないが、やはり野蛮だという理由でロシア国内での人気は低い。こんな国民性だからこそ、運動を通じて精神修養の面を重要視する日本武道に対する関心は高いのだろう。
 そして、日本では、戦前こそは武道が「実戦」の中で使うための術として扱われていたが、戦後の平和な中にあって武道が精神性を強調することで、社会の中に溶け込んできた。日本は各種の武道が群雄割拠するという状況なので、もともと格闘術に対する関心は高いし、格闘術を習うということに関しては「精神修養」が先にくるので、「根本的に人を壊す技術」であるという点に関してはあまり重きを置いていない。だから、そこに違和感は感じない。それゆえに、海外から次々と格闘技を輸入し、「術を使う」ことを前提とするのではなく、「術を習得するプロセスを大事にする」という転換を行う事で受け入れられ、どれもが広がっている。
 実用に重きを置きすぎたため、その嫌悪感から精神修養を求めるロシア人。
 精神修養と考えているため、どんな術も「悪用」など考えずに受け入れてしまう日本人。
 お互いが置かれた歴史的な背景を含めて、このような違いに至ったというのは、非常に興味深い。
 どちらの国民にも言える事は、根本は「優しい」ということだ。このへん、日本人とロシア人って、似ているよなぁと思うのである。