人権と情状酌量

愛知県警一宮署は30日、同県一宮市時之島、無職佐溝千菊(ちぎく)容疑者(77)を、殺人未遂容疑で現行犯逮捕したと発表した。
調べに対し、佐溝容疑者は「殺そうと思って刺した。孫がいなくなれば家族も自分も楽になると思った」と話しているという。
政樹さんはふだんから家族に金をせびっていたほか、気に入らないことがあると暴力を振るったり、家のガラスを割ったりしていたという。

16歳の孫の刺殺図る、77歳の祖母逮捕…愛知・一宮

 4月29日のエントリ「加害者にも人権はある」に対してはいろんな意見が寄せられた。
 その際、多かったのは、

殺人犯に人権なんていらない

という明かな暴論だった。(平和ボケとか、机上の空論とか、いろいろ言われたよな)
 では、たとえば、この事件の場合、殺人未遂ではなく、本当に成功していたら、この老人に「人権なんていらない!」と言える人が何人いるだろうか? 「情状酌量」という言葉を知らないのだろうか。この老人は普段から苦しみ、悩みに悩んだ末に、苦渋の決断をし、犯罪であることを覚悟した上で実行したのだ。その心情を想像することはできないのか?
 確かに人を殺そうとする事、人を殺す事は悪い事だ。でも、この場合、加害者に同情してしまうのは私だけだろうか。
 一概に、「殺人犯に人権なんていらない」などと言える/言った人に対して、私が「想像力が不足している」と指摘していたのは、こういう事件もあるという現実を見ていないのはどっちだ?という問いかけだったのだ。
 その場の感情だけで判断するのではなく、世の中は多様かつ複雑で、想像以上にいろんなケースがあるということを知ったうえで判断して欲しいと思う。少なくとも、判例集でも読めば、こんな事件が山ほどあることがわかるだろう。だから、雰囲気や感情だけで一律に「死刑にしてしまえ!」とか「厳罰が当然だ!」などと決めつけるのは危険極まりない論法なのだ。
 おわかりかな?>人権無視派の方々

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