1位はとりあえずめでたい話なんだけど

理化学研究所理研)と富士通は6月20日、神戸市で共同開発中の京速コンピュータ「京」がLINPACKのベンチマークTop500で第1位を獲得したと発表した。ベンチマーク値は8.162ペタフロップ(FLOPS)で、実行効率は93.0%を達成した。

「京」がTop 500のトップに、7年ぶりスパコン世界1位の座を奪還

 Wikipedia「京」の説明を読むと、喜んでばかりはいられないことがわかる。

システム名 構築費(億円) 運用費(億円/年) 性能(TFLOPS) 備考
京(予定) 1120 80 10,000 2012年稼働予定
Blue Waters(予定) 444 80 15,000 2011年稼働予定

 今年に稼働する予定のスパコン「Blue Waters」は「京」の約半額以下の値段で、性能を上回ってしまう。おそらく、11月に出されるランキングでは、二位以下に落ちるのではないだろうか。
 しかも、「京」に関しては、ちょっと値段がかかりすぎているということで、設計の方針に関して批判があるのも確か。以下はWikipediaから引用。

  • GRAPEなどの多体問題専用計算機で有名な国立天文台教授の牧野淳一郎は、「メモリバンド幅やネットワーク性能とか色々考えても、高々 10Pflopsに1100億は2012年の数字としては高価にすぎる」、「性能当りで(コストが)高い、ということが日本の計算科学の将来に明らかな悪影響をもつ」と批判した。
  • 汎用パーツを用いることにより、わずか3800万円でこれまで国内最速であった「地球シミュレータ2」を超える多体問題専用スパコンを開発した長崎大工学部テニュアトラック助教の濱田剛は、地球シミュレータ京速などの巨費を投じたスパコンの開発方針について「素直にいいとは言えない。方向性が逆。」と述べており、スパコン開発はコストパフォーマンスを重視して行われるべきとの見解を示した。
  • 2009年12月18日、「仕分け人」でもあった東京大学教授の金田康正は、「国策スパコン自体には期待しているのだが、現状のスパコン事業のやり方には到底賛成しかねる」と発言した。

 ちなみに、今回5位になったTSUBAME2.0に関しては、構築費が約26億円で1,200TFLOPSということで、やっぱり「京」が性能の割には高いと思えてしまう。
 これは昔から指摘されていたことでBlog「おごちゃんの雑文」にある2009年11月に書かれたエントリ「「京速」は潰れるべきだったのだ。明日の世界一のために」では、このプロジェクト自体への懸念が書かれているが、その通りになりそうな雰囲気ではある。
 また、能澤徹氏はBlog「スパコン漫遊日記」で、今回の成果について触れながら、以下のように書いている。

  • 京が筐体の出荷をスケジュールどうりにこなし、Blue WatersやBG/Q、或いは中国などの動きが無ければ、この6月のISC11で京が Top1になる可能性は残されている。11月のSC11ではBlue WatersやBG/Qが来るのでまず無理。」ということで、予測の付く話であったが、現実にそうなってみると、それはそれで、感慨深いものがある。
  • つまり、激戦の11月のSCを避け、6月のISCを狙ったのは、作戦勝ちであったと思うが、切った張ったの、タイミングを狙った、1番2番の話はともかく、本質的には、Rack集積度の悪く、膨大なRack数が必要なSPARC−VIIIは、コスト的に、とてもIntel系のCPUには太刀打ちできないわけで、投資固化の観点からは、意味がないもの、としかいいようがない。
  • 今回の話題は理研のK-Computerであるが、年度という単位でみると、11月のSCを待たないと、年度の第1位をKeepできるかどうかは判らない。

 とにかく値段が高いというのと、一位だけを目標にするのは手段と目的が違っているとしか思えないということだけは述べておきたい。もっとも、コンピュータは速いほうが良いに決まっているし、そんな需要もたくさんある。京と同じ型のスパコンはすでに受注されているから、商品としては成り立っているということなんだけど、「何が何でも一位じゃなきゃ嫌なんだから」というレベルの話はしたくないかもね。

スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)

スーパーコンピューターを20万円で創る (集英社新書)