国民が選択した黒塗りの社会

 本当に「これで良い」と思っている人って、いったいどれくらいいるのだろうか?


 朝日新聞2013年10月30日社説

秘密保護法案―首相動静も■■■か?


 特定秘密保護法案をめぐり、こんな議論まで飛び出した。
 小池百合子元防衛相が衆院特別委員会で、新聞の「首相動静」をやり玉に挙げた。
 「毎日、何時何分に誰が入って何分に出たとか、必ず各紙に出ている。知る権利を超えているのではないか」
 その意に沿うように、27日の首相動静の一部を黒塗りにしてみると――。
 首相動静、■日
 【午前】■時■分、東京・■■■■町の■■省。■分、■■自衛隊ヘリコプターで同所発。■■、■■■■■■■■■同行。■分、東京・■■■■町の■■■■駐屯地着。
 【午後】■時■分、■■方面総監部庁舎で■■■■■相、■■■■副大臣らと食事。■時■分、■■ヘリで同駐屯地発。■分、■■空港着。
 情報統制のもとで、あえて首相の動きを伝えようとすると、こうなってしまう。
 小池氏は「日本は機密に対する感覚をほぼ失っている平和ボケの国だ」とも述べた。
 そうだろうか。
 菅官房長官はその後の記者会見で「各社が取材して公になっている首相の動向なので、特定秘密の要件にはあたらない」と説明した。当然だ。
 小池氏は第1次安倍内閣で、安全保障担当の首相補佐官に任命され、国家安全保障会議(日本版NSC)の創設を主導してきた政治家である。情報公開を軽んじる考えを国会で公言するような人物が、NSC法案や秘密保護法案を進めているということか。
 同じ安倍内閣で小池氏が経験した防衛相ポストは、秘密保護法案によれば、まさに特定秘密を指定する権限をもつ「行政機関の長」にあたる。
 それを考えると、やはり秘密が際限なく増えていく懸念はぬぐえない。
 一方、民主党政権の時代にも、秘密保全法制がらみの情報公開請求に対し、全面黒塗りの資料が公開されたことがある。
 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
 こんな具合だ。
 政治家や官僚は、だれのために働いているのか。原点から考え直してもらいたい。
 たしかに首相動静は、他国の新聞ではあまり見ない欄だが、むしろ日本政府の透明性を誇るべきではないか。
 いったん秘密保護法が成立すれば、何が特定秘密かもわからなくなる。
 黒塗りの文書でさえ出てこないのである。


 朝日新聞2013年10月31日社説

情報を守る―盗聴国家の言いなりか


 いまの世界でまず守らなければならない情報とは、何だろうか。政府の秘密か、それとも市民の個人情報か。
 米政府による世界規模の盗聴や情報収集に批判が高まっている。その底知れない広がりに驚いた国際社会では、市民の情報を守る動きが加速している。
 欧州連合(EU)はグーグルなど外国企業に、個人情報の勝手な流用を許さないルールづくりに力を入れる。
 国連では、ネット上の個人プライバシーの保護を、国際人権規約に照らして確認する総会決議案の検討が始まった。
 いずれも、だれかが勝手に個人の情報を盗んだり記録したりするのを防ごうとする危機感から生まれた国際潮流だ。
 ところが日本では、論議が逆の方向に動いている。政府が米国からもらう断片情報を守るために、公務員や市民ら自国民の監視を強めようとしている。
 特定秘密保護法案である。スパイ疑惑の当事者である米政府の求めに従って、日本人に秘密の厳守を義務づけ、重罰を設けようというのだ。
 世界の潮流に逆行しているといわざるをえない。
 米国の軍事機関のひとつである国家安全保障局による膨大な情報吸い上げの疑惑は連日、各国で報じられている。
 ドイツのメルケル首相は私用の携帯電話を長年盗聴されていた。35カ国の首脳の電話が盗み聞きされているという。フランスやスペインでは1カ月に市民の数千万のメールや電話が傍受され、ブラジルでは国営石油企業の通信など産業情報も盗まれていた疑いがある。
 そこから露呈したのは、ほぼ独占しているネット技術などを駆使する米国の身勝手さだ。外交の看板に民主主義や自由をうたう一方、実際は自国の国益を最大限追求し、同盟国さえも広く深く盗聴するという寒々しい現実がさらけだされた。
 日本政府がそのさなかに米国情報の保護を優先し、日本社会の「知る権利」を削るならば、あまりに理不尽である。
 ドイツとフランスは、EUと米国との自由貿易交渉でも、諜報(ちょうほう)活動の釈明を求めるなど攻勢を強める構えでいる。
 いま情報保護のために矛先を向ける相手は自国民ではなく、米政府であるのは明らかだ。
 安倍政権がやるべきことは、日本の市民のプライバシーが侵されていないかを確認し、個人情報を守る国際規範づくりに率先して参画することだろう。それこそ積極的平和主義と呼ぶにふさわしい行動だ。


筒井康隆全集 (2) 48億の妄想 マグロマル

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