カルト化した国家の行方

「集団自決には旧日本軍が深くかかわった」。ノーベル賞作家・大江健三郎さん(73)の「沖縄ノート」の記述などを巡り、旧日本軍の元戦隊長らが出版差し止めなどを求めていた訴訟。28日、大阪地裁の深見敏正裁判長が、原告敗訴の主文を読み上げ、軍の関与に触れると、傍聴者で満席の202号大法廷は「よし」という声とため息が入り交じった。
「私は原告らの個人名を挙げて罪人扱いしたことはない。当時の皇民教育を背景に起きたことと考えているからだ。判決は私の『沖縄ノート』をよく読み込んでくれた」と満足そうに語った。

集団自決訴訟:軍の関与…法廷内に支援とため息入り混じる

 「皇民教育」というカルト洗脳状態にあった人の行動を非難することなどはできない。それは当然だ。
 したがって、「軍の命令=天皇陛下の言葉=神のお告げ」であるということで、心理的な強制であったということは容易に想像できる。命令する側も、命令された側も、天皇を神とする「神国日本」の思想に支配されていたのだから、両者とも通常の判断ができたとは思えない。もう、歴史的に不幸な背景があって行われたことだと言うしかない。
 だからこそ、その「現人神」として祭り上げられ、多くの国民を洗脳状態にし、周りの国々まで巻き込んで多くの人命を奪ったシンボルを、私は許すことができない。
 断言すれば、祭り上げられ、本人達もそれを受け入れ、拒否しなかった。そして、周りの暴走があったにせよ、最高責任者としてそれを止めることができなかった時点で、確実に責任はある。私はそう思う。

沖縄ノート (岩波新書)

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